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【DAY33】 少女の勘違いと秘密基地

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杉山世子の【メキシコ滞在記】

2014/08/27

【DAY33】 少女の勘違いと秘密基地

研修旅行11日目~豆乃木杉山は8月下旬の2週間、産地を離れてコーヒーの研修に出かけています

【DAY33】 少女の勘違いと秘密基地

ピピラの丘で

ホームステイ先は、日本人経営のスペイン語学校で紹介してもらった。だから、これまでにも、多くの日本人が、この家を紹介され、お世話になっている。
 
ホームステイ先のお昼の食卓では、11歳の女の子が
「イタダキマス」
と日本語で言って、おどけてご飯を食べ始める。
私もそれに続いて、
「いただきまーす!」
ホームステイ先のごはんは美味しい。
 
スペイン語学校でのこと。
「ミロス(子どもの名まえ)にピピラに誘われない?」
と先生に聞かれる。
ピピラというのは、グアナファトを一望できるピピラの丘のこと。
ガイドブックにも紹介されている名所で、ホームステイ先から歩いて5分くらいのところにある。
 
「まだ誘われてないです。」
と言うと、
「そう。でもそのうち声掛けられるよ。うふふ。」
とのこと。
 
そして、「そのうち」はそのすぐあとに訪れた。
 
いただきます、と言って食べ始めたミロスが、なんとなく、ホストマザーであり、彼女のおばあちゃんにあたるホセフィーナをちらちら見ている。
 
そして、ホセフィーナがうんうん、と頷くと、彼女がスペイン語で話掛けてきた。ほぼ聞き取れないのだけど、唯一聞こえてきた単語が「ピピラ」。
 
ついに来たか。
私は内心、皆が誘われるらしいピピラに、私だけお呼びが掛からなかったら寂しいなと思っていたから、じわじわと嬉しい。
 
「じゃあ5時ね」
と彼女は言う。
わかった5時ね、と言って、一旦部屋に戻る。
 
そして、ぴったり5時に、11歳が飛び跳ねるように家を出て、ピピラの丘まで散歩をする。丘に続く坂道は、以前、訪れたことのあるザンジバル島のオールドタウンを思い出す。違うのは、両側にそびえる建物の鮮やかな色。
 
ひとりだったなら、きっと迷子になっているであろう細道を飛び跳ねる小さな体のあとに続くと、ピピラ像が突如姿を見せる。雄大だけれど、なんとなく彼だけが景観を損ねていると思えなくもない。いやいや、メキシコ独立の英雄になんて失礼な。
 
ピピラ像を囲むように連なる商店。街でも見かけるのだけれど、かっぱえびせんのような菓子(それにサルサソースを掛けて食べる)を売る出店なんかもある。
 
そして、ここまで連れてきたくれた可愛い子どもに、
「好きなものを選んでいいよ」
と声を掛ける。
いいよいいよ、と遠慮するミロス。いいから、食べたいもの全部食べよう、と私。遠慮がちに伸びた指が指したのは、ただのお水。
 
かっぱえびせんみたいなお菓子も食べる?と聞いて彼女が見せた破顔こそが、私にとっての何よりものご馳走。
 
なのに、私は「ミロスがすでにもう何度も何度も登っているこの丘に行きたがるのは、このご褒美のためだったりして」と邪推する。というよりも、私がこの町の子どもだったら、絶対にそうしていたな、という下心でもあり。
 
そのあとに、ミロスはとっておきの秘密基地に案内してくれた。それは細い非常用の螺旋階段で、酔っぱらうくらいにくるくるくるくる、ねえちょっと待ってよ、まだ上に着かないよ、もうだめだ足が動かない、と言いながら上った最上階の踊り場。
 
ふたりで腰を落としたらきゅうきゅうになってしまう踊り場で、私たちは言語でもなく、ジェスチャーでもない「会話」をして笑っていた。
 
1時間ほどして家に着くと、ミロスは唐突に
「何歳?」
と私に聞く。
「何歳だと思う?」
と私。
すると彼女は真顔で
「23歳?」
と聞く。
「まさか・・・」
絶句する私。すると、さっきよりももっと真顔で
「18歳?」
・・・そうかそうか、こんなことだったら、ピピラの丘で、ちびちびお菓子買わないで、店ごと買ってあげるんだったな。

でもねミロス、いつも十(とう)も上の年齢と間違えられるからって強がるわけじゃないけれど、もう今さら23歳なんてまっぴらごめんだよ。今がなんていうか、ちょうどいい。螺旋階段をのぼって間もなくして、ぜえぜえ咳きこんじゃうくらいでちょうどいいのよ。


ところで、もしあなたが私の実年齢を最初から知っていても、秘密基地に連れて行ってくれた?